研究紹介:A Theory of Rational Addiction

この記事では、下記の論文の内容に関して紹介する。

Becker, Gary S., and Kevin M. Murphy. “A Theory of Rational Addiction.” Journal of Political Economy, vol. 96, no. 4, University of Chicago Press, 1988, pp. 675–700, http://www.jstor.org/stable/1830469.


依存症という現象を数理モデル化した初期の研究がRational Addiction(合理的中毒)である。合理的中毒とは、中毒は特定の種類の合理的、前向きな最適消費計画として有用にモデル化できるという仮説である。期待効用理論をベースとするこの理論は、ケビン・M・マーフィーとゲイリー・ベッカーによって行われた仕事から来ている。

依存症は、非生理的な意味で、過去の消費が現在の消費に及ぼす因果関係として定義され、依存症性は個人に特有のものである。しかし、この理論では、中毒者はその財が自分にどのような影響を与えるかを正確に知っており、彼がどんどん消費する(「夢中になる」)理由は、これが彼の割引効用を最大化する消費パターンだからであると考える。この考え方に対しては賛否両論があるが、この理論的アプローチは経済学における「依存症行動に関する文献の標準モデルの一つ」となっている。

これにより例えば、依存財は過剰消費と少量消費に分岐し、学習によりこの分岐の傾向は顕著になることを示すことができる。

横軸が依存財のストック、縦軸が依存財の消費量を示す。ストックとは在庫を意味するが、この記事では依存財をどれほど入手するかという意味で捉える。生活必需品など依存性がない消費財の場合、安定した消費行動が行われる。すなわち、必要な分だけこれを在庫しておき、消費する。このため、このグラフ上では直線となる。これに対して、合理的中毒理論に基けば、依存財の場合、このグラフ条で上に凸という構造になる。依存財の在庫があればすぐに使い果たし、使いきれなくなるまで在庫を所持することからこのようなモデル化ができるということになる。

依存材が安定的に消費される状況を考えると、図中の点Eと点Dが均衡点になる。点Dでストックの擾乱が発生した場合、これによる消費量の変動は小さく消費行動により元の位置に戻ろうとするという意味で安定平衡点である。これに対して、点Eでストックの擾乱が発生した場合、これにより消費量が激しく変化しストックが消に追いつくまでには点Dにまで到達しなければならないことになるため不安定平衡点である。この不安定均衡点の存在は、依存症者はしばしば大酒を飲むこと、依存財を禁止したときに「禁断症状」が発生すること、不安や緊張が依存症を促進させることを暗示している。

ここで、点Dを依存状態、点Eを非依存状態と考えると、この理論に基づけば「依存材は二つの消費の均衡点を持ち、依存状態の方が安定である」と結論づけられる。これが、依存材における過剰消費と少量消費に分岐である。

また、依存財の価格を上げるなどして、依存財の上に凸となる関数を制御すれば、過剰消費と少量消費のギャップを抑えることができ、さらなる制限により安定的に消費させないようにできることがわかる。

この理論からさらに考察を進めると、ヒトの学習が進めば(すなわち年齢を重ねれば)、より過剰消費と少量消費の分岐のどちらかにいる可能性が高くなり、さらに過剰消費の人数が多くなっていくと考えられる。この一例として、日本の年代別の飲酒頻度のグラフを示す。棒グラフは左側が男性、右側が女性を表し、上から男性全体、20代、30代、40代を示す。棒グラフは一番左が「毎日飲酒する」人で、一番右が「ほとんど飲酒しない」人である。一つのデータに薄い色と濃い色の棒グラフが二つ示されているが、これはそれぞれ2007年、2017年のデータを表す。

本研究で得られた考察を確認するためには、調査年は気にせず、男女の20代、30代、40代の一番左の「毎日飲酒する」と一番右の「ほとんど飲酒しない」人の割合の変化を観察すれば良い。その結果、年齢を経るにつれて男女、調査年に関係なく「毎日飲酒する」人たちの割合が明らかに増大しているのが確認できる。また、男性は調査年になく「ほとんど飲酒しない」人の割合が減少している。しかしながら、女性にはそのような傾向は顕著に見られなかった。これは、多くの男性が仕事で飲酒する機会が増えるのに対して、女性は育児などをすることにより飲酒する機会に恵まれないことが関連している可能性がある。いずれにしろ、このデータが示す結果は学習が進むにつれて、(特に男性では)、より過剰消費と少量消費の分岐のどちらかにいる可能性が高くなり、さらに過剰消費の人数が多くなっていくという合理的中毒理論の示す結果と一致することがわかる。


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